いきなりですが、本を出版しました。電子書籍ではなく、紙の書籍、ペーパーバックです。


といっても、町の書店に行っても置いていません。Amazonが運営するKindle Direct Publishing(KDP)というサービスを利用したセルフ出版で、Amazonでしか購入できません。


KDPはもともとはその名の通り、Kindleで読める電子書籍を個人がセルフ出版できるサービスでしたが、その後、紙書籍のセルフ出版サービスも始めたのです。当初は米国だけでのサービスでしたが、2021年10月から日本でもサービスの利用が可能になりました。しかもサービスの利用自体は無料で、ISBN(世界中の出版された書籍に割り当てられる、書籍1点につき1つの番号)も無料で取得でき、出版された書籍は世界中のAmazonで販売可能です。出版後、書籍はデータの形でAmazonに保管され、実際に受注があるとAmazonが即座に書籍データを基に印刷製本して完成品を出荷します。そして売上金をAmazonと著者(出版者)が分け合い、著者の取り分から印刷製本コストが差し引かれる仕組みです。したがって、実際に本が売れるまでは印刷製本コストが一切発生しないため、初期費用は全く不要で、著者が自分で在庫を抱えることもありません。ただし、Amazon以外で販売したいという場合は、著者価格(印刷製本コストのみの価格)で自ら購入し、それを自身で手売りするしかありません。知り合いに無料で進呈したいという場合も、自身で著者価格で購入したものを手渡す形になるでしょう。それでもかつての自費出版に比べればはるかに手軽で廉価であることは間違いありません。なお、KDPで無料取得できるISBNは日本のISBNではないため、残念ながら日本の書店流通に乗せることは不可能です(自身で日本のISBNコードを取得し、それをKDPで出版する書籍に付与することは可能ですが、その場合も現実に書店流通に乗せることは非常に困難です)。


KDPの日本でのサービス開始のニュースを聞いて以来、一度試してみたいと思っていたのですが、今回思い切って実行に踏み切りました。出版したのは『生前遺句集 1991-1999』(汎兮堂主人・著)、Amazonで絶賛販売中です。タイトルが物騒ですが、これについては後で述べます。出版の手順やノウハウをまとめた体験記は別途、電脳電網総研のほうで記事にしていきます(下記参照)が、ここではこの書籍の中身について、説明と紹介といいわけと宣伝をしておこうと思います。

【誰でも無料セルフ出版】KDP紙書籍出版体験記(1)


この本の序にも書きましたが、今回の出版の目的は、KDPでの出版を体験すること自体にあって、極端な話、コンテンツは何でもよかったわけですが、手間と時間をあまりかけずに作成できて、しかもある程度のページ数になるようなコンテンツが理想でした。ページ数がある程度必要というのは、タイトル表記のある背表紙にするには一定以上のページ数(つまり厚み)が必要だからです。やっぱり背表紙にタイトルがあってこそ「書籍」という感じがするのです(単なる個人的なこだわりであり、背表紙に印字がなくてもKDPでの出版に問題はありません)。


そんな都合のいいコンテンツがあるのかと思うでしょうが、あったのです。僕が十代から二十代初め頃に詠んだ俳句です。当時無駄に几帳面だった僕は、所属結社の機関誌や角川書店の俳句総合誌『俳句』などに投稿して選に入った句を中心に、随時自分でワープロに手打ちし印刷して冊子の形にまとめていました。その後俳句と完全に関わりを絶ってからも何となくそれを捨てることができず、机の引き出しの奥に隠すように保管し続け、気が付けば二十年以上の月日が過ぎていました。昨年の引っ越しの際に、それらの「手作り句集」を再発見し、「これだ」とひらめいたのです。俳句なら二百句、三百句でも入力の手間はたかが知れています。1ページに四句くらいの掲載にすればページ数も稼げます。上述の条件に見事に当てはまる、まさに理想のコンテンツです。


とはいえ、二十年以上昔のカビの生えたような句を今になって人の目に曝して大丈夫かという懸念ももちろんありました。ただ、こう見えて実は角川俳句賞の最終選考に2回ほど残った経験もあったので、まともな句だけ選んでいっても、十分な数にはなるはずだし、そこまでひどい句集にはならないはずだと楽観的に考え、先月半ばころからついに「手作り句集」の埃を払いながら原稿作成を開始したのです。


作業としては、二十年以上昔の手作り句集(冊子)をめくりながら、まともなものを選んで入力していくというだけですが、事前の予想以上に内容がひどく、収載の基準を厳しくすると句数が足りなくなるため、結局、当初の想定より基準は大幅に甘くなりました。仮名遣いの間違いのほか、内容に関しても若干手を加えた句もありますが、基本的には原作を尊重してそのまま掲載することを原則にしました。当時のことが思い出されて感慨深い句もあれば、どういう背景で詠んだ句なのか自分でも思い出せない句も少なくありません。こうなってくると自分の句なのに他人の句のようにも思えてきます。句集の序にも書きましたが、タイトルの「生前遺句集」というのは、「すでに俳句を作っておらず今後も作ることがない作者の句集というのは、作者が生きていても遺句集と同じ」という考えからですが、まさに「今は亡き過去の自分」が遺した句を他人のような目で編集する作業でした。


実名は出したくなかったため、著者名は「汎兮堂主人」としました。発行者は一般の出版物であれば出版社(あるいは出版社の社長や編集長)の名前になりますが、セルフ出版の場合は実態としては著者自身です。しかし、本物の出版物っぽくしたかったため、自分一人で運営する出版企画団体による発行という形にし、適当な団体名をつけることにしました。同好会名やサークル名による発行というのも普通にあるので、一人任意団体の名前での発行にも特に問題はありません。この辺り、KDPはおおらかですが、そのかわりアカウント作成時の身元情報にはきちんと本名と正しい住所等を登録しなければいけません。


出版企画団体名として、最初は「烏有出版企画」という名前を考えました。「烏有」というのは「いづくんぞ有らんや」と訓み、「どうしてあるだろうか、あるはずがない(つまり、無い)」という意味で「無」と同義です。つまり、「どこにも存在しない出版企画団体」という実態に即した名前になります。我ながら良い名前だと思ったのですが、調べてみると「烏有書林」という出版社が現実に存在していたので、ボツになりました。代わりに同じような意味の「兎角(ウサギの角、つまり存在しないもの)」ならどうかと思って調べたところ、「兎角出版」とか「兎角書店」とかいう会社はなさそうなので、「兎角出版企画」という名前にしました。「とにかく出版する企画」とも読めて、今回の出版の趣旨にも合致するので、結果オーライといえるでしょう。また、通常、奥付には発行者の連絡先を記載するものですが、住所や電話番号を載せてわけにもいかないので、「兎角出版企画」のX(旧twitter)アカウントを作成し、そのURLを載せて、それらしく見せることにしました。


せっかくなので、収載した句をいくつか紹介しながら、少し昔話をしてみたいと思います。本のタイトルにもある通り、時期としては1991年~99年、前世紀末の10年に満たない期間です。


赤すぎる薔薇の秘めたる黒ほのか

高浜虚子の「白牡丹といふといへども紅ほのか」を格好いいと思い、「〇(色の名)ほのか」で終わる句を詠もうという意図のもとにできた句。虚子の句を模倣しておきながら原句に漂う上品さと優雅さを微塵も受け継がず、黒みを帯びるほど濃い赤のドぎつさだけを感じさせる残念な模倣ですが、当時高校生だった僕は、このドぎつさを格好いいと思っていたのです。中二病ならぬ高二病、あるいは、模倣は劣化することの証明、でしょうか。


全身が怒髪の枯木天を衝く

「怒髪天を衝く」という成句を利用して上手くまとめた小手先の技巧と言えばそれまでですが、「全身怒髪」というのは気持ちがこもっていて悪くはないと今にして思います。この手の成句を利用した句は「右顧左眄左顧右眄する雀の子」とか「天知る地知る我知る子知る菫かな」「銀漢を仰げば梵我一如かな」などなどどれも浅薄ですが、この句はそれらとは異なる実感と実態が備わっている気がするのです。

仔馬の名呼べば瞬きして応ふ

日だまりの小鳥ら頬を寄せ合へる

げんげ田の子らよく笑ひよく転ぶ

こういう平和で穏やかな句をもっと詠んでいれば、幸せな人生を送れたのかもしれません。当時はこんな句には物足りなかったのですが、今読んでみると、「こういうのでいいんだよ、こういうので」(五郎さん風に)という気がします。いまさらですが。

誰か俺を殴れ枯野の真ん中で

手作り句集の記録によれば、角川書店『俳句』1996年3月号の投稿欄で有馬朗人・草間時彦両先生の推薦に採られた句。当時の『俳句』投稿欄は、数人の選者が各々、推薦・秀逸・佳作の3段階で句を選び、推薦の句には選者のコメントがつく形でした。選者には有名結社の主宰級の俳人が並び、各選者のバックボーンや作風、方向性は当然異なるため、推薦に選ぶ句が重複することはあまりなく、それだけに複数選者から推薦に選ばれると自信になったものです。ただし、この句はどう見ても普通の俳句ではなく、有馬先生も「明らかに俳句的な感動ではない」とした上で「俳句になる感動に枠をはめずに詠んでいるのがよい」という趣旨のコメントをされていたのを覚えています。世間的には有馬先生は東大総長、参議院議員、文部科学大臣として知られていると思いますが、僕にとっては高校時代から「よく採ってもらえる選者」という認識でした(不遜きわまりない)。選句は作者名を伏しておこなわれるはずですから、意図して選んだわけもなく、僭越な言い方ですが、たまたま俳句的嗜好性に似通ったところがあったのでしょう。結局、有馬先生の謦咳に接する機会はありませんでしたが、2020年の12月の訃報に接したとき、頭に浮かんだのはこの句でした。ちなみにこの句を生んだ自分への怒りがどういう怒りだったのか、今となっては全く思い出せませんが、思い出したいという気持ちもありません。

この句読むあなたのうしろ雪女

全く新しい俳句を詠みたいと当時は常に思っていて、読者を登場人物にしてしまったらどうだろうというアイデアで詠んだ句です。アイデアとしては面白い句だと思いましたが、この方向性の先には何もなさそうだとすぐに気付いてしまった、そういう意味ではざんねんな句でした。

韃靼へ花の番地へ蝶別れ

元ネタの作品を知らないと何のことかわからない句です。安西冬衛の「てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った」と、ルナールの「蝶 二つ折りの恋文が、花の番地を捜している」を下敷きにして、二匹の蝶が別れていった先を、一匹は韃靼海峡の彼方へ春を伝えに行き、一匹はあたたかな日差しの中で咲き乱れる花々を目指して行ったのだと、想像したわけです。こういうのは説明してしまうと全く面白くなくなるため、伝わる人に伝わればいいという割り切りが必要ですが、俳句を読む/詠む人なら、上記の二つの作品は知っているはず、という計算もあったように思います。

夕焼をはだけて空が海を抱く

モノクロの夢に寒紅のみ赤し

白き息洩れてくちづけ終はりけり

欲求不満のあまり、こういう何となくエロい句を作っては、さらに欲求不満を募らせるという悪循環も、今となっては恥ずかしさより懐かしさを覚えます。ただし懐かしいだけで戻りたいという気持ちは全くありません。

倒産のシャッター鳴らす風寒し

花冷えや夜逃げのあとの町工場

死に蜂の眼をつむらせることできず

つぶれたるコンビニ古巣残しあり

カップ麺待つ三分の寒さかな

作句期間の末期は平成金融恐慌と本格的なデフレ時代への突入に重なり、重苦しく暗い句が多くなります。僕自身の人生と精神もこの後のどん底に向かって下降していくことになります。ここで詠まれたカップ麺がどのくらいの値段だったかわかるでしょうか。当時、企業もお店もつぶれまくっていたため、倒産した卸や小売業者から商品を二束三文で買い入れた業者が、それを格安で一般に販売するイベントが頻繁に開催されていたのですが、そういうイベントではカップ麺が60円とか70円、スニーカーが500円、ティッシュ5箱が99円とかで売られていたのです。僕もそういうイベントがあると必ず出かけていき、食料品や日用品を買いだめしていました。消費者としては安く物が買えるのは助かるわけですが、これはいわば絶滅直前の肉食恐竜のようなもので、餓死した草食恐竜の肉を喰らって目先の飢えは楽に凌げても最終的には自らも同じ運命をたどらざるを得ません。僕自身はその後なんとか運よく人生を立て直し、恥を忍んで氷河期を生き延びることができましたが、この時期に強力に沁みついたデフレ根性は今なお拭い去りがたく、今のインフレ時代に対応できず戸惑うばかりです。華麗に鳥類に進化した恐竜たちが大空へ飛び立っていくのを仰ぎ見ながら、僕は時代遅れの恐竜のまま新生代まで生き延び、今なお地上をさまよっています。

暗い話になってきたので、この辺で終わりにしたいと思いますが、この記事を読んでいただいた方は、生き残った恐竜を哀れと思って一人あたり10冊くらい購入してもらいたいと思います。ついでにレビューも投稿してください(評価は5つ星で)。文面を考えるのが面倒だと思うので、以下の例文をコピペしてもらうといいかと思います。

この句集を買った翌日から宝くじに当たったり、会ったこともない親戚の遺産が転がり込んできたりして億万長者になれました!次は100冊買います!

長年不眠に悩まされていましたが、この句集を10冊買って枕にしたところ、毎日驚くほどスムーズに入眠できるようになり、中途覚醒もなくなりました。

後頭部の髪が薄くなってきて気にしていましたが、この句集を買い始めてから少しずつ髪の毛が増えていき、10冊目を買った今ではすっかりフサフサです。これからもずっと買い続けます!

数年前から膝の違和感に悩まされていましたが、この句集を買ってすぐに脚が軽くなり、階段も走って登れるようになりました!今では1週間に2冊ずつ買っています。

この句集のおかげでシミ、シワの悩みから解放され、20歳若く見られるようになりました。これからも毎日朝晩の購入を続けていきます。

読者満足度ナンバー1!! 購入者の96.5%が「買ってよかった」と回答!!(※目分量による調査) 
※実際にこういうレビュー投稿をするとたぶん問題になるので、シャレでもお控えください。もちろん、本当のご感想・ご意見はご投稿いただけるとありがたいです。

今回の出版でKDPについて基本的なノウハウは修得できたと思いますが、今回は早く出版することを最優先したため、試せていないこともまだまだあります。どうせ無料なので、「出版スキル」向上のため次の出版も検討していますが、適当なコンテンツ探しがネックです。